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岡山地方裁判所津山支部 昭和50年(ワ)53号 判決

主文

1  被告の、昭和四七年五月二八日付別紙第一目録記載の議案についての、および同年六月一一日付別紙第二目録記載の議案についての各社員総会の決議はいずれも存在しないことを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

主文同旨。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

(一)  津山市元魚町五一番地の三に本店を有する有限会社実成薬局は昭和四三年一二月一四日に設立された有限会社で、その役員および社員構成は左記のとおりである。

役員  代表取締役   実成安佐子

取締役     原告

社員  1  原告        一〇〇口

2  実成安佐子      九三口

3  実成豪        一〇口

4  山崎名津枝      一〇口

5  小野善之助       四口

6  杉山磨         三口

(二)  同四七年五月二八日同会社の社員総会が開かれ別紙第一目録記載の各議案が議決されたとして、同会社の商業登記簿に訴外山形八重子同山形和三郎らが同日取締役にそして同日同山形八重子が代表取締役にそれぞれ就任した旨の登記がなされている。

(三)  同年六月一一日同会社の社員総会において別紙第二目録記載の議案が議決されたとして同商業登記簿に同会社が商号を有限会社ケンコー薬品と変更した旨の登記がなされている。

(四)  しかしながら右(二)(三)でいわれている社員総会決議はいずれも存在しないものである。

(二)記載の社員総会については当時の代表取締役であつた訴外実成安佐子は社員総会の招集手続をとつたことがないのは勿論同訴外人および原告らはそのころ何人からも同社員総会の招集通知も受取つていないし、同社員総会が開かれたこともない。従つて訴外山形八重子同山形和三郎を有限会社実成薬局の社員にしたことは勿論同社の取締役に選任したこともないから(三)でいわれている社員総会も又存在しない。

よつて原告は被告に対し請求の趣旨記載の裁判を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因(一)ないし(三)の事実はいずれも認める。

同(四)の事実は争う。

三  被告の主張

(一)  請求原因(二)(三)記載の社員総会はいずれも左記のとおり開催され、同各項記載の各議決がなされた。

1 同年五月二八日付社員総会

(1) 招集者   招集手続はなされたが誰がしたか不詳

(2) 招集通知日 招集手続はなされたが何時なされたか不詳

(3) 開催場所  訴外成本商事三階事務所

(4) 出席社員  原告、実成豪、山崎名津枝

2 同年六月一一日付社員総会

(1) 招集手続  なされていない、総社員の同意もない。

(2) 開催場所  有限会社実成薬局本店

(3) 出席社員  山形八重子、山形和三郎

(二)  同年五月二八日付社員総会の招集手続について仮りに招集手続が認められないとしても、総社員の同意を得て省略されたものである。

四  被告の主張に対する認否

被告の主張はすべて否認する。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求原因(一)ないし(三)の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  被告主張の各社員総会およびその決議の存在について

(一)  同年五月二八日付総会

請求原因(二)の事実は当事者間に争いがないが、そのほか同社員総会の開催決議を認めるにたる証拠はなく、かえつて、証人実成豪の証言および原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、同総会については招集通知等招集手続は一切行われず勿論同日社員が一堂に会し議案について協議議決がなされなかつたことが、右各証拠および証人河本弘の証言によれば当時有限会社実成薬局は経営不振に陥り同薬店舗に同社にかわり他の薬局業者を入居させるべくその方法を司法書士に相談を持ちかけたところ、同司法書士において社員総会開催およびその決議がないのに請求原因(二)記載の議案の議決があつた旨の有限会社実成薬局臨時社員総会議事録と称する書面等を作成するなどその形式をととのえて同項記載の登記を完了させたことがそれぞれ認められる。右認定の事実によれば、当事者間に争いのない請求原因(二)の事実にかかわらず被告主張の社員総会の決議が存在するとはとうてい認められず、他に本件全証拠によるもこれを認めるにたる証拠はない。

被告は更に同日付社員総会決議について総社員の同意により招集手続を省略したとみるべき事案である旨主張するが、仮りに被告主張の事案としても、社員が会議を持ち議案について協議決議した事実のないこと前記のとおりであるから理由がない。

(二)  同年六月一一日付社員総会

請求原因(三)の事実は当事者間に争いのないところであるが、招集手続がなされず且つこれにかわる総社員の同意もなかつたこと被告の自認するところであるほか、その余の点についても被告の主張によれば同日訴外山形八重子同山形和三郎らが有限会社実成薬局の本店で会議を持ち議決した旨主張するもののようであるが、仮りに同人らが会議をもつたとしても前記のとおり同年五月二八日付社員総会の決議が存在しない以上同人らは社員に非ざる者というほかなく、同社員総会に他の社員の出席者のなかつたこと被告の自認するところであるから、右争いのない事実にかかわらず、いずれの点からみても被告主張の社員総会の決議の存在を認めることはできない。

三  以上説示のとおりであるから、原告の本訴請求は理由があり正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(別紙)

第一目録

第一号議案 持分譲渡承認の件

原告の持分一〇〇口のうち四〇口を山形八重子に譲渡すること及び実成安佐子の持分九三口のうち九〇口、実成豪の持分一〇口及び原告の持分六〇口合計一六〇口を山形和三郎に譲渡することを夫々承認する件。

第二号議案 取締役、代表取締役変更の件

取締役兼代表取締役実成安佐子取締役原告の各辞任を承認すること及び山形八重子を取締役兼代表取締役に、山形和三郎を取締役に選任すること。

第三号議案 定款変更の件

定款第六条社員の氏名及び住所並びにその出資口数は次のとおりとする。

岡山県津山市元魚町五一番地

一〇〇口  実成多加代

同所同番地

九三口  実成安佐子

同所同番地

一〇口  実成豪

同県同市橋本町一二番地

一〇口  山崎名津枝

同椿高下八五番地

四口  小野善之助

岡山県久米郡中央町小原七六八番地

三口  杉山磨

とあるを

岡山県津山市美濃町二〇番地

四〇口  山形八重子

同所同番地

一六〇口  山形和三郎

同津山市元魚町五一番地

三口  実成安佐子

同津山市橋本町一二番地

一〇口  山崎名津枝

同津山市椿高下八五番地

四口  小野善之助

岡山県久米郡中央町小原七六八番地

三口  杉山磨

と変更すること。

定款第一五条 当社の取締役は社員実成多加代、社員実成安佐子の二名とする。

とあるを

当社の取締役は社員山形八重子、社員山形和三郎の二名とする。

と変更すること。

定款第一七条 当社の代表取締役は実成安佐子とする。

とあるを

当社の代表取締役は山形八重子とする。

と変更すること。

第二目録

商号有限会社実成薬局を有限会社ケンコー薬品と変更すること。

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